美咲は72歳になっていた。新しい朝が静かに幕を開ける中、香ばしいコーヒーの芳香がキッチンに漂っていた。朝陽が穏やかに居間のテーブルに差し込んでいる。彼女は自らの手に異変を感じた。右手が今まで経験したことのない何かを感じている。なんというか、動きが鈍いというか、思い通りに動かせないのだ。戸惑いはあったが、忙しい朝のざわめきに飲み込まれ、その変調を軽く考えていた。 昼、庭で草むしりをしている最中にも異変が漂っていた。言葉が詰まり、思い通りに口からこぼせない。言葉が彼女に反逆しているかのようだったが、それも一過性だったので、気に留めずに庭仕事に没頭していた。 夜、以前から約束していた友達との待ち合わせに向かう途中、再び異変が訪れた。右半身が鈍り、足取りが不安定になったが、数分後には何事もなかったかのように落ち着く。少しは気に留めてはいたが、疲れが溜まっているのだろう、歳だからだろう、そう思って友