金もない友人もいない恋人もいない。 こんなにさびしく苦しい人生ならば、生まれてこなければよかったのだ。 そうだ。生まれてこれないようにしよう。 私はそう決心した。 私はタイムマシンの製作にとりかかった。 それから長い年月の間、地下研究室にこもり人知れず研究開発を続けた。そして遂に私はタイムマシンを完成させることができた。 これを世間に公表すれば富と名声を得られるのだろうが、今の私の心境はそんな低次元な欲望に惑わされることはない。 当初の目的である私自身を生まれてこさせないようにすること。 それこそが私の原風景であり最大の目的であり純粋で尊い至高の意思なのだ。 初志貫徹。私はこの用途以外には決して使うまいと決めていた。 あのときの決意を簡単に変えるほど、私は軽薄で脆い人間ではないのだ。 完成したタイムマシンで早速、五世祖父の時代に遡った。 この五世祖父を殺してしまえば私が産まれてくることはも
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