猫の耳というものはまことに可笑(おか)しなものである。薄べったくて、冷たくて、竹の子の皮のように、表には絨毛(じゅうもう)が生えていて、裏はピカピカしている。硬(かた)いような、柔らかいような、なんともいえない一種特別の物質である。私は子供のときから、猫の耳というと、一度「切符切り」でパチンとやってみたくて堪(たま)らなかった。これは残酷な空想だろうか? 否。まったく猫の耳の持っている一種不可思議な示唆(しさ)力によるのである。私は、家へ来たある謹厳な客が、膝へあがって来た仔猫の耳を、話をしながら、しきりに抓(つね)っていた光景を忘れることができない。 このような疑惑は思いの外に執念深いものである。「切符切り」でパチンとやるというような、児戯に類した空想も、思い切って行為に移さない限り、われわれのアンニュイのなかに、外観上の年齢を遙(はる)かにながく生き延びる。とっくに分別のできた大人が、