今回は、橋川文三の日本ロマン派論を軸に、1950年代を素描し、ロマン主義と決断主義の関係を論じて、現代の論壇事情についても言及しました。 1 橋川文三は、1957年に日本ロマン派について考察をはじめ、その成果を雑誌に連載していった。それを60年に単行本としてまとめたのが『日本浪曼派批判序説』(以下『序説』)である。58年にはその中間発表として、雑誌「文学」に「日本ロマン派の諸問題」という論文を発表してもいる。雑誌「文学」はこのとき日本ロマン派の特集を組んでおり、橋川の論文はその一部をになうものだったのである。 国粋イデオローグとして戦争の片棒をかついだとされる日本ロマン派(とくにその首領・保田與重郎)について、戦後十年たったいまもなお、まとまった議論がまともになされていないという思いが当時の橋川にはあった。しかしそれと同時に、その思いを踏みにじるように「もはや戦後ではない」と喧伝されはじめ