→紀伊國屋書店で購入 「悪妻伝説」 漱石の私生活を扱う本はいつも人気が高い。その多くがタネ本にしているのが本書である。語り手は未亡人の夏目鏡子。娘婿の松岡譲による筆録なのだが、鏡子の落語みたいな語り口が実に雄弁で、ほとんど芸の域に達している。 鏡子夫人は悪妻伝説で有名だ。そもそも「悪妻」の定義が何なのか気になるところだが、本書を読んでいくと、ああ、そうか、と腑に落ちる。たとえば悪妻は、朝、起きられない。朝になると、頭が痛い。 私は昔から朝寝坊で、夜はいくらおそくてもいいのですが、朝早く起こされると、どうも頭が痛くて一日じゅうぼおっとしているという困った質でした。新婚早々ではあるし、夫は早く起きてきまった時刻に学校へ行くのですから、なんとか努力して早起きしようとつとめるのですが、なにしろ小さい時からの習慣か体質かで、それが並はずれてつらいのです。(中略)時々朝の御飯もたべさせないで学校へ出し