(水声社・3360円) ◇全体から細部までを貫く言葉遊び 「黒く染まった切なさへ/なお白雪(はくせつ)のなだれ込む/黒く染まった切なさへ/なおも風さえつらを張る」 フランスの作家ペレックの『煙滅(えんめつ)』と名付けられた傑作で、眠れぬ男アッパー・ボンが忽然(こつぜん)と姿をくらます。ボンの仲間は、残された彼のノートや雑多な本の山から、その行方を探そうとする。冒頭で掲げた面妖な文は、仲間へ宛(あ)ててボンが送った小箱から発見された、「中原(なかはら)」作の「名だたるポエム」から取ったものである。さて、ここまでを読んだ方々は、必ず、どこか変だと思うはずだ。どこがどう変なのか、当てられるだろうか? 言うまでもなく、中原中也の詩の中で最も人口に膾炙(かいしゃ)しているのは、「汚れっちまった悲しみに/今日も小雪の降りかかる/汚れっちまった悲しみに/今日も風さえ吹きすぎる」という一節である。それがな