イブン・バットゥータの「三大陸周遊記」(抄訳)を初めて読んだのは、もう、半世紀以上昔のことになるだろうか、「あぁ、こんな旅がしてみたい」と心から思ったものである。本書は、この「大旅行記」の完訳を成し遂げた1939年生まれの碩学によるまたとない案内書だ。 14世紀の初めにモロッコで生を受けたイスラームの法官、イブン・バットゥータは、なぜ30年に及ぶ大旅行を達成し得たのか。その背景には、モンゴル世界帝国による平和(パクス・モンゴリカ)とイスラーム世界の安定した権力(デリー・スルタン朝、エジプトのマムルーク朝、マグリブのマリーン朝など)により、インド洋海域世界とユーラシア大陸を相互に結ぶ国際的な交易ネットワークが、1つの世界システムとして成立していたことが挙げられる。 数えで22歳のイブン・バットゥータはメッカ巡礼(ハッジ)に旅立ったのだが、エジプトのアレクサンドリアで2人の聖人から遠行漫遊を示
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