探偵小説が下火になって来た。曾(かつ)ての勃興当時、作者と読者とが熱狂して薪を投じ油を注いだ炬火(たいまつ)は、今や冷めたい灰になりかかっている。 曾ての自然主義文芸がそうであったように……。 自由民権思想がそうであったように……。 人類の趣味傾向が、かくして遂にドン底を突いてしまったのだ。 明治維新以来、西洋文化の輸入に影響されて日本人の趣味が急劇に低下して来た。以前から忌避し軽蔑されていた肉慾描写や、不倫の世相が、自然主義の輸入以来逆照され初めた。人間が不合理視され、禽獣道が合理視されるようになった。それは、たしかに新しい傾向であった。 ところが明治末期から大正以降に於ける探偵小説の流行は、そうした傾向を更に低級化し、深刻化した。モット尖鋭な肉慾や露骨な犯罪心理に深入りする趣味を、日本人に逆照して見せた。そうしてその逆照手段が本格、変格のあらゆる角度に向って急速に分析され、分科され、単