テレビ朝日の特設ステージでトークショーを行う工藤遥は僕を見ず、僕も工藤遥を見ていなかった。工藤遥はヒーローショーを観に集まった幼児達や司会や共演者を見た。僕はぼーっとどこか虚空を見つめたり、工藤遥と同じように集まった幼児達を見ていた。 普段の生活で幼児と接する機会は無い。こんなに大勢の幼児を見たのは自分自身が幼児だった頃以来だ。一通り幼児達の新鮮なリアクションを確認した後、その親達も見た。おそらく僕と同じくらいの年齢だろう。トークショーの終わりに客席に降りてきた工藤遥は幼児達と嬉しそうに触れ合い、僕はそれを茫然と眺めた。人形を2つ握りしめて。僕はそこにいてはいけないような気がしていた。 トークショーに行く2ヶ月ほど前、脳腫瘍の摘出手術を受けた。手術の後、全身麻酔から目覚めた僕は医師から簡単な検査を受けてHCU(高度治療室)に入れられた。比較的重篤な患者が大部屋に集められ、24時間体制で看護