人間に格はない―石川経夫と2000年代の労働市場 [著]玄田有史[掲載]2010年4月11日[評者]植田和男(東京大学教授・経済学)■弱者への共感、冷徹な分析で表現 本書は労働経済学者である玄田氏による日本の労働市場、特に1990年代から2000年代の非正規労働市場、あるいは無業者に関する分析である。根拠薄弱の論説が多い分野だが、本書の最大の特徴は大規模なサンプル数を誇る「就業構造基本調査」や著者中心に作成された新規のデータベースを用いた綿密な統計分析にある。 非正規労働者と一口に言ってもその中身は多様である。暗いイメージが付きまといがちだが、著者の大きな発見の一つは、非正規労働者でも数年程度の職場経験が正規化、あるいは年収増大のためにはっきりとプラスの影響があるという点である。一方、短期での転職を繰り返さざるを得ず、境遇の改善が難しい、あるいは無業化してしまう人たちがいる。しかも、過去の