人間が通常の経済学が想定するような意味で合理的ではない、という主張は受け入れたとして、それでは社会科学における人間行動の研究はいかなるものであるべきだろうか? 異なる主観的価値の貫徹あるいは充足(最大化とは言わないまでも)を目指す異なる個人が社会においてどう折り合うかあるいはどう相克するか、という社会科学の基本(唯一とは言わぬが)テーマを離れて、合理性を全く問わずに行動あるい心理の現象的な法則性のみを追求することは、事実分析のあり方として現実的ではないし、また少なくとも社会科学をやる上では意味がないと筆者は思っている。これは経済学における共通見解でもあると思う。首尾一貫的でないながらもそれなりの価値基準を持った個人が、完全でないながらもそれなりの推論能力を以って行動を選択する限定合理性の研究が追求されているのもその故にであろう。 そうした限定合理性の研究は2つのジレンマを抱えている。よく知