新たなフランス映画今年、ノーベル文学賞に輝いたフランスの作家、アニー・エルノーの実体験をもとにした『あのこと』。本作は、2021年のベネチア映画祭で最高賞(金獅子賞)を受賞し、審査委員長のポン・ジュノ率いる審査員から満場一致で圧倒的な支持を得た衝撃作だ。監督デビューから2作目にして、世界的に重要な賞を手に入れたオードレイ・ディヴァンに話を訊いた。 舞台は1960年代のフランス。教師を目指して日夜、勉強に励む大学生のアンヌは妊娠に気づく。当時フランスでは人工中絶が禁止されていて、医師や助産師、仲介者、そして手術を受けた本人に至るまで厳しい処罰が課されていた。「中絶」という言葉を発することすら憚られる時代。誰の助けも得られないアンヌは、たった1人で未知の闘いに挑んでいく……。 監督のオードレイ・ディヴァンは異色の経歴の持ち主だ。パリ政治学院でジャーナリズムと政治学を学んだ後に、ファッション誌や