ああ、虎ノ門と麻布台の空き家群か。起伏に富み、坂をあがったりくだったり、歩いても誠に味のある路地に沿って古い家や商店が続く風景。超高層のオフィスビルや大使館が立ち並ぶエリアにあって、三十余年に渡り昭和後期の街並みが凍結保存されてきたあの一角か。残されてきた理由は、バブル期の大規模再開発計画がなかなか進んでいないからだと風のうわさで聞いている。 編集部からその一角について記事を書けと依頼がきたのだった。明け渡しがほとんど済み、ほぼ無人となった静かな町は、確かに奇妙な美しさがある。それらが今、丸ごと消えようとしていると。