踏み切りを渡ろうとしたとき、名前を呼ばれたような気がして振り向いた。 「久しぶりだね。増田」 誰だかわからずいぶかしんでいたら、向こうから自己紹介してくれた。 信じられなかった。 彼女は中学時代、私をいじめていた主犯だった。 あまりに親しげに、何もなかったかのように話しかけられて正直面食らった。 何を話したのかはよく思い出せない。 「懐かしいね。」 「そうだね。」 「元気にしてる?」 「元気にしてる。」 とそんな何気ない、親しい同級生が久しぶりに再会したときのような会話をしたような気がする。 ただ「今何してるの?」といわれて 「大学院で法律の勉強をしてる」と返事をしたことだけは覚えている。 あのときの、相手の顔を。 ゆがんだ顔だった。 (中学をギリギリで卒業したお前が、私より上の立場になっているとは思わなかった。) 顔にはそう書いてあった。 「ふぅん、頭よかったもんね」 踏み切りが鳴った。