私にとっての「食事」とは、生活の中における最も重要な営みであり、そして娯楽でもある。 「グルメ」を自称するほどの深い経験値はないが、それでも若い頃は新規開拓の店でずいぶんと外食を重ねていた。そして、まだ味わったことのないフードたちを舌に踊らせ、テーブルでひとり、静かに歓喜の声を上げることを最大の趣味としていた。 ところが、どうしたことだろう。 齢三十五を過ぎたあたりから、私の舌は「保守」に陥っていた。 気がつけば、チェーン店の牛丼ばかりを食べている。たまにラーメンで句読点を打つこともあるが、なんにしても消極的な態度に変わりはない。「食事」を最重要視するあまり、「食べることに失敗したくない」という意識がダメな方向で自分を染め上げてしまったのか。気がつけば無難なものばかりを食べる中肉中背の男がそこにいた。今日の紅しょうがの味は、昨日の紅しょうがとまったく同じ味だった。 こんなことでは、いけない