ヴァリス フィリップ・K・ディック サンリオSF文庫 1982 Philip K. Dick VALIS 1981 [訳]大滝啓裕 SFにどっぷり溺れていたのは70年代と80年代の20年間ほどだ。ブラッドベリとバラードの衝撃を受けて以来、数々の驚嘆と感嘆に見舞われてきたが、構えて取り組み読みをしたのは、ディックのものが多くなっていた。取り組み読みというのは、暗号解読者のように読むということだ(ピンチョンなどもそのように読んだ)。なかで深くて速い過呼吸に襲われ、構えも崩れそうになったのが『ヴァリス』だ。 そこには、情報ネットワークがもたらす知の能動性についての、最も幽遠か、もしくは最も忌まわしい妄想と哲学が滾っていた。 どうしてあんな異様な話が書けたのか。フィリップ・キンドレッド・ディックであるからだ。これでは何も説明したことにならないけれど、そう言うしかない。それほど卓抜きわまりない作家だ