『われ巣鴨に出頭せず』(工藤美代子著 日経新聞社 2006年7月) 終戦の年昭和20年の12月、近衛公(侯爵)はマッカーサー総司令部への出頭の前夜、杉並の自宅で自死した。大戦中、三次にわたって首相をつとめ、天皇への補弼の役割を果たしてきた近衛公は、その死後批判と非難に曝された。 これまで「『香淳皇后」や「黄昏の詩人堀口大学」「野の人会津八一」などノンフィクションに精力的に取り組んできた工藤美代子が、ロンドンのナショナル・アーカイブスなどの外交資料もふくめ綿密な調査にもとづいて、その生涯から死の真相に至るまでを追った。ここで語られていることは、もう50年以上も前のことである。しかしそこには、極めて重要かつ衝撃的な内容が含まれており、今日の私たちにとっても知るべきことと思うので、少し詳しくご報告することにした。なおこの本を手にしたのは、万巻の書を蔵する読書家のM氏の推薦のお陰である。でなければ