ヨコタ村上孝之は、私の先輩に当たる。同僚でもあった。しかし今では、絶縁状態であり、犬猿の仲である。その理由を説明しよう。 ヨコタ村上孝之は、もと村上孝之だった。年齢は私より三つ上、大学院で五つ先輩で、つまり私が入学した時は、博士課程の五年目になっていた。背は私と同じくらいだが、宮本亜門のような顔で、女たらしだという噂だった。私が入学して一年で、大阪大学へロシヤ語教師として赴任したのだが、後で聞いたところでは、阪大のトロツキストのロシヤ語教授(藤本和貴夫)が「酒の飲めるおもしろい奴はいないか」と訊いてきて推薦されたという。これはまあ冗談半分としても、酒癖の悪い人であることは、後に分かる。語学の才能があり、ロシヤ語、英語その他いくつかの言語を自在に操っていた。赴任する前に、後にミス大阪になったという、自分より背の高い女性と結婚し、「今までつきあった女の子全部と取り替えてもいい」と言っていたそう