会話から、ふと垣間見える、意外な一面。 言葉の中にこめられた、人生のはかなさと美しさ。 さまざまな世界で活躍する方々にお話いただく「その人の素顔」。 第1回目は、作家の佐伯一麦さん(聞き手は文芸評論家の池上冬樹さん)。 山形で暮らした日々、病気、文壇での交友などを話していただきました。 ―― 佐伯一麦さんは「私小説を生きる作家」といわれています。「木の一族」の言葉を借りるなら、「生きていく人間のあたり前の姿」を誠実に書いている。 しかし生きていく上には多くの苦労があり、短篇「まぼろしの夏」(作品集『まぼろしの夏そのほか』所収。講談社、2000年)の冒頭には、「1993年7月31日、夜。私は睡眠薬で自殺を図った」とあります。自筆年譜(講談社文芸文庫『ショート・サーキット 佐伯一麦初期作品集』所収)にも、“七月末、睡眠薬自殺を図るが、未遂”という記述があります。93年というと山形にお住まいの頃