19世紀末パリ、それまで情報伝達や複製の手段でしかなかった版画は、新たな芸術表現を切り拓く重要なメディアとなった。トゥールーズ=ロートレックや世紀末の前衛芸術家たちによって、版画は絵画と同じく芸術の域まで高められ、それらを収集する愛好家も出現した。一方、大衆文化とともに発展したポスター芸術をはじめ、かつてないほど多くの複製イメージが都市に溢れ、美術は人々の暮らしにまで浸透した。 世紀末パリにおいて、「グラフィック・アート」はまさに生活と芸術の結節点であり、だからこそ前衛芸術家たちの最も実験的な精神が発揮された、時代を映すメディアであったと言えるだろう。 本展は、こうした19世紀末パリにおける版画の多様な広がりを検証するものである。三菱一号館美術館およびアムステルダム、ファン・ゴッホ美術館の貴重な19世紀末版画コレクションから、リトグラフ・ポスターなどを中心に、油彩、挿絵本などを加えた約14