(承前) アガンベンは、潜勢力という聞きなれない概念を説明するさい、「建築家は、建築をしていないときでも、建築家であることができる」という比喩をもちいている。たとえば、休みの日に家でくつろいでいる建築家は、たんに建築をしていないだけであり、潜勢力としては建築家である、というわけだ(かりに、建築家がじっさいに建築をはじめた場合、潜勢力は、現勢力に移行する)。すなわち、人は、行為する(存在する)ことができるし、また同時に、行為しない(存在しない)ことができる。前述したバートルビーの定式、「しないほうがいいのですが」を読み解く軸となるのも、この潜勢力だ。アガンベンは、目にみえない可能性としての潜勢力をきわめて重要視している。 しかしこれは、なんというか、いっけんあまりにも自明であって、こうしてわざわざ説明をするほどのことでもないように見える。だが、これを「投票」に置きかえてみると、潜勢力の意味あ