東浩紀は、『クォンタム・ファミリーズ』(二〇〇九)で本格的に小説家としての活動を始める。それまでにも、桜坂洋らとの共著で「ギートステイト」『キャラクターズ』といった作品はあったが、ひとりで小説を発表したのは『クォンタム・ファミリーズ』が初めてだった。この作品は、これまで東浩紀が組み立ててきた理論をたんに実践に移したものとしても読みうる。だがそれは、ジャック・デリダが第二期に行なった様々なテクストの試みを、第一期でデリダが組み立てた理論の実践として読んでしまうのと同じだ。そして東は『存在論的、郵便的』において、まさにそのような読みを否定した。私たちは、東に倣って『クォンタム・ファミリーズ』を読むこともまた必要ではないか。この章ではひとつの解釈、ひとつの「感想」を書くことになる。その前にまず、『動物化するポストモダン』(二〇〇一)と『ゲーム的リアリズムの誕生』(二〇〇七)を読んでいこう。 さて