25年前の夏、1人の高校球児が千葉県大会予選を戦っていた。甲子園を目指して……。いや、正確には目指していたのかどうか、本人でもわからなかったのである。 「周りのチームや選手たちを見ていると『ああ、自分の高校では甲子園には行けない』と、わかってしまったというか……。だから、投げていても全然、甲子園を想像できなかったんです」 前沢賢。とある高校にピッチャーとして推薦入学した。エースとなり、ベスト16まで進んだ。だが、この投手の悲しさは周りが見えすぎて、壮大な夢を描けなかったことである。 卒業後、とある大学にやはり野球推薦で入った。同期にはいわゆる「甲子園組」が大多数だったが、実力では自分の方が上だと感じることもあった。なぜ、彼らは甲子園に行けたのか? 「彼らに聞いたら『だって甲子園に行くつもりで高校に入ったから』と……。僕とはそこが決定的に違いました。つまり自分が想像できないことは達