記者コラム 「多事奏論」 編集委員・吉岡桂子 私は「偽装離婚」している。 ちょうど20年前。上海へ特派員として赴任する直前のことだ。旧姓併記が難しかった当時のパスポートでは、私は夫の姓だった。海外で重要な身分証であるパスポートと名刺などで使う「通称」の不一致は、中国では特に面倒が予想された。 取材活動を通じて拘束される恐れがある国だ。捕らえられた時に二つの名前を不審がられ、日本の戸籍制度を説明しても伝わらず、こじれたらどうしよう。同僚にも迷惑がかかる。面倒なヤツだと思われると、仕事のチャンスが遠のくのではないか。 この時、38歳。朝日新聞の…