このところ景気は回復し、物価は上昇しているが、給与があまり増加せず、実質賃金の低下が問題視されている。景気が回復しても給与が思うように伸びないことの大きな要因は、「量」的な側面からみれば雇用は改善しているものの「質」的な側面が改善せず、非正規雇用比率が引き続き上昇していることである。例えば、総務省『労働力調査』の1月分の結果では「非正規雇用の割合は37.6%」「前年同月に比べ133万人増えた」ということが話題になった*1。 ではなぜ雇用の「質」は、景気が回復しデフレではない状況になりつつある現在も改善していないのか──その主たる理由は、デフレ下における企業行動に慣性が働いているためである。デフレ下では、期待インフレ率がマイナスであるため、将来にわたって名目値で支払う長期雇用者の人件費や債務の利子などの負担の現在価値が大きくなる。これらの負担を抑制するため、企業にとって、必要な労働力をできる