ホームに列車が滑り込む。降り立った乗客は改札口を抜けて駅舎の外へ。待ち構えていたタクシーが出迎える。「ご乗車、ありがとうございます」 岩手県山田町で創業から70年以上を数える「山崎タクシー」の3代目社長、山崎淳一さん(53)もまた、23日の第三セクター三陸鉄道のリアス線開業に特別な思いを寄せる一人だ。 <一瞬の出来事> 東日本大震災の津波と火災で、自宅兼事務所は1階の車庫を残すだけの無残な姿をさらした。母良子さん=当時(75)=も犠牲になった。 「病気なら最期までの段階がある。でも、津波は一瞬の出来事だ」。失ったものが大きすぎて業務再開を考える余裕はなかった。 ところが三鉄北リアス線は、被災からわずか5日で一部区間の運転を再開したという。常連客は「タクシーは動かないの?」と尋ねてくる。われに返った。 「創業者の祖父が出征中は、祖母がタクシーのハンドルを握って会社を守った。両親も地域の足を守