東京ロンダリング [著]原田ひ香 事故や事件で人が死んだ部屋に一カ月間だけ住む、というのが主人公りさ子の仕事である。賃貸物件の場合、問題の部屋に一度誰かが入居すれば、それ以降の入居者には事情を説明する義務がなくなるらしい。そこで生まれた職業なのだ。 当然ながら、りさ子は死んだ人間の部屋ばかりに住み続けることになる。「住む」こと自体が仕事だから、あとは何をしていても自由なのだ。 ちょっと羨(うらや)ましいような気持ちになる。私も燈台(とうだい)守や山小屋の番人に憧れたことがあるが、それ以上に静かで人と関わらない仕事が、都会のど真ん中で可能だとは。 お金と効率の原則に支配された現代の東京にも、奇妙な「隙間」があったものだ。いや、その支配を突き詰めたからこそ生まれた「隙間」というべきだろうか。 だが、実際にそんな仕事をずっと続けたら、人間はどうなってしまうのだろう。「住む」だけでありつつ、それは