2019年、ダークホースだったミルクボーイが圧倒的な強さで優勝したこの年のM-1はこんな言葉で総括された。「誰も傷つけない笑い」。最終決戦に残ったぺこぱの「否定しないツッコミ」を象徴として、「誰も傷つけない笑い」は一躍お笑いのトレンドとしてもてはやされる。 中年の星・錦鯉が貫いた「誰も置いていかない笑い」 あの年「誰も傷つけない笑い」なんてものがこの世にあるのだろうかと考えた。お笑いでも音楽でも文章でも、何かを表現する人は常にそれが見知らぬ誰かを傷つけるかもしれないという十字架を背負う。どんなに気をつけてもたぶん誰かを傷つけている。私とあなたが違う限り、表現は誰かを傷つける。 2021年のM-1グランプリ。最終ラウンドに残ったのはインディアンスと錦鯉とオズワルド。決勝常連組が準決勝で敗退し、まるで「お笑いライブに週4で通う人が高熱の時に見る夢のような(ロングコートダディ堂前)」メンバーが残