小松左京の『SF魂』を読んでたら、凄いエピソードが書いてあった。 小松左京が京都大学を卒業して、経済誌の編集者をしていた1954年ごろの出来事。 忘れられないのは、創刊一周年記念号の目玉として湯川秀樹博士に取材した時のこと。湯川先生は東洋史の貝塚茂樹先生の弟だから、高橋和巳に頼んで貝塚先生から紹介してもらったのだが、当時は取材に来る新聞記者があまりに不勉強なことにウンザリされていた。その時も、最近はどんなことに関心をお持ちかと僕が聞いたら、「小松君、この歌は知っているか」と仰る。 「月やあらぬ 春や昔の春ならむ わが身ひとつはもとの身にして」 僕が「在原業平ですね」と答えると、「おっ、よく知っているね」と。当時すでに量子力学の観察者問題(極微小の量子力学の世界では、観察すること自体が観察されるものに影響を及ぼしてしまうという問題)が言われ始めていたから、「観察者問題ですか」と尋ねたところ、