──灰色の隠者── 空泳ぐ巨龍の頭部。その上に、灰色の長衣に身を包んだ、黒の影を朧に纏う老人が立っていた。 彼は後退していく昂壁の者達を余裕の視線でもって見下ろす。 今まで彼等が退くのに合わせ、超長距離から儀式魔術による多種の攻撃が行われてきた。今回も、あと暫くすれば何かの術式がこちらの進路に向けて打ち出されてくるだろう。 そこまで読めているのだ。避けようと思えば容易い。 だが、彼はあえてそれを正面から受け、そして力で持って捻じ伏せ、乗り越えてきた。 己と、龍が持つ力がどれ程のものなのか。 そして抗すべき相手、昂壁の翼との間に、どれだけの力の差があるのか。 それを確かめるかのように。 『この程度なのか?』 五年前に離れ、そして己が越え、下そうとしていたもの。 あれ程に固執していた場所。 それがこの程度のものだったというのか。 失望が、欠けた記憶の隙間に染みていく。 身の奥で盛る炎。既に火種