去る5月、李克強首相の訪印が実現し、マンモハン・シン首相との首脳会談では国境地帯の平和と安全、ブラマプトラ川上流でのダム建設に伴う問題、二国間貿易不均衡の是正といった両国間の懸案事項が協議された。今回、インド側を大いに困惑させたのは、李首相訪印の1か月前、中国人民解放軍がラダク地方でのインド側実行支配地域を19キロ越境し、しばらく居座るという事件が発生したことである。06年に胡錦涛国家主席が訪印した際にも、その直前に中国政府がアルナチャル・プラデーシュ州の領有権を主張し、インド側を困惑させたことがある。 昨今、尖閣諸島、南沙諸島の領有権をめぐって中国は強硬姿勢を貫いており、日本、ベトナム、フィリピンとの関係で軋轢が高まっているが、これまで領土問題をめぐって中国との間で苦い経験を味わいつつも、両国関係拡大に漕ぎつけてきたのがインドである。1962年の中印国境紛争での敗北は、インド国民に対中