わずか5秒の早業で財布を抜き取り、自らを「抱きつきスリのプロ」と豪語した男が昨年11月、大阪府警に窃盗容疑で現行犯逮捕された。捜査員の間でも凄腕スリ師として知られていた志津田(しつた)邦博被告(63)=同罪で起訴。酔客を狙い30年にわたって犯行を重ねたその技術は、スリ専門の捜査員でさえ「全く気付かなかった」とうなる。仕事もせず、生活保護も受けずにスリ一本で生計をたてていたという志津田被告が腕を磨くために重ねていた特訓とは-。酔客に抱きつき5秒 昨年11月30日金曜日の深夜。忘年会シーズンに入った大阪・ミナミの繁華街は多くの人でにぎわっていた。その雑踏の中、スーツにネクタイ姿で大阪市中央区東心斎橋にある雑居ビルの前をうろつく志津田被告の姿があった。酔っ払いが1人でエレベーターに乗るのを狙うためだ。 しばらくすると“獲物”がやってきた。足取りがおぼつかない男性会社員(45)がビルのエレベーター