李 啓充 医師/作家(在ボストン) (2906号よりつづく) 前回までのあらすじ:種痘登場前,天然痘に対する「予防」は人痘接種であった。 前回は英国で人痘接種が始められた経緯を紹介したが,英国でモンタギューが初めて人痘接種を実施したのと同じ1721年,まだ独立前のアメリカでも人痘接種が始められていた。 ボストンでの普及と反対運動 アメリカで人痘接種を始めたのは,ボストンの牧師,コットン・マザー(1663-1728年)。悪名高い「セイラム魔女裁判」(1692-93年)で指導的役割を果たしたことで知られる宗教家である。マザーは,「魔女裁判は間違っていた」と一般に認識されるようになった後も一貫して「裁判は正しかった」と主張し続けたことでもわかるように,植民地時代のニューイングランドにあって,もともと「controversial(物議をかもしがち)な」存在であった。 そのマザーが人痘接種についての