これは傑作。男に狂って贅沢三昧の挙句、破滅する女の話なんて珍しくない。しかし、これを古典にまで成したのは、間違いなく小説のチカラ。だから安心してハマってほしい、「小説を読むこと」の、純粋な悦びが汲みだせるから。 恋に恋するこじらせ女や、哀れなほど典型的なコキュ、既視感ありまくる浮気相手など、分かりやすくカリカチュアライズされた登場人物は、「俗物」の一言で片付く。世間体を気にして、見栄に振り回される人生は、反面教師と扱ってもいいが、むしろ、こういう人々で世は成り立っていると気づくべき。戯画的に誇張されているとはいえ、彼女が抱く「人生のこれじゃない感」は嫌悪を持って共感されるだろう。善人の愛と狂人の恋の、よくできた御伽噺と思いきや、世界は俗物で成立しており、俗物により世は回っているという、ウンザリするほど現実的な話に付き合わされる。 ミもフタもない現実につきあわされる分、"つくりもの"としての