◀ ある朝会社へ行ったら、涙があふれてとまらなくなった。【鬱日記1】 「今日はもう帰りなさい。会社のことも家のこともすべて忘れて、好きなことをしなさい。ゆっくり、あなたがやりたいことだけやりなさい」 いつも隣のデスクで仕事をしている直属の上司は、僕の家庭内のことも知っていたので、そう言って快く送り出してくれた。 それでも後ろめたく、動揺していたのだろう。僕はオートバイのエンジンをかけてからヘルメットをかぶっていないことに気づき、クラッチを握ってからグローブをはめていないことに気がついた。 会社を出る頃には太陽が奔放に輝いていた。ぢりぢりと二の腕を灼く陽光が心地よい。風は生ぬるく、すこしだけ海の香りがした。それでも涙は止まらなかった。 陽のあたる家に戻る。午前中だから誰もいない。明るく開放的な玄関口を眺めていたら、九年前に引っ越してきた頃のことを思い出した。なんの心配もなかった、ただ海の街に
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