はじめに 現代は〈出版文化の時代〉とでも呼ぶべきであろうか、街の本屋の棚は、人目を惹く意匠で飾られた沢山の本や雑誌で溢れている。毎日100点を越える本や雑誌が次々と刊行されるというから、新刊本が本屋の棚に置かれている時間もそう長くはないのであろう。特に売行きの良くない本は、まず取次ぎに返品されて店先から消え、次に版元へと戻され、最後には裁断処分されてしまうのである。この事態は、出版物が紛れもなく一箇の商品であることを示している。つまり、どんなに優れた書物であっても、売れなければ市場から姿を消して行かざるを得ないのである。だから出版社は売れる企画の準備に腐心し、その結果、雑誌や文庫に力を注ぐことになる。出板が営利事業である以上、至極当然の成行きである。斯様な問題は、実は出版という営みが始まった時点から、既に起きていたのであった。 近世以前の文学作品は、筆写という手段に拠って一部の読者とだけ関