『映画よさようなら』(フィルムアート社、2022年)収録。初稿データなので単行本とは一部表記が異なる可能性があります。 偶然性にあって、存在は無に直面している。 『偶然性の問題』九鬼周造 人生においては、偶然というものを考慮に入れなければならない。偶然は、つまるところ、神である。 『エピクロスの園』アナトール・フランス 1。偶然性の問題 昭和十年(一九三五年)のことなのでずいぶんと昔の話だが、横光利一が「純粋小説論」のなかで次のように書いている。 ドストエフスキイの罪と罰という小説を、今私は読みつつあるところだが、この小説には、通俗小説の概念の根柢をなすところの、偶然(一時性)ということが、実に最初から多いのである。思わぬ人物がその小説の中で、どうしても是非その場合に出現しなければ、役に立たぬと思うときあつらえ向きに、ひょっこり現れ、しかも、不意に唐突なことばかりをやるという風の、一見世人
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