臓器摘出対象とされる死刑囚(や法輪功学習者)、さらには金銭のために臓器を売る貧しいドナーたちの人権は声高に語られる。私も、及ばずながら、それらについて拙文を物してきた(注1)。 しかしながら、移植のためにアジアに出向く患者の人権についてはあまり、というか、ほとんど関心をもたれていない。それどころか、彼らは悪人のイメージで見られ、後述するように帰国後、診療拒否にさえあっている。 果たしてそれでよいのか、彼らは倫理的非難に値するのか(後述するように、私は値しないと考えている)、仮にそうであるとしても、彼らにも人権があるのではないか、などというのが私の問題意識である。本稿はこれらの点について、主として生命倫理の視点から管見を述べるものである。 (1)移植ツーリズムとは何か(注3) 移植ツーリズムは、美容整形ツーリズムや生殖医療ツーリズムなどと並んで、医療(メディカル)ツーリズムの一種である。この