今回、芥川賞をもらうことになった「共喰(ぐ)い」という作品を私が書き始めたのは、丁度去年の今頃だったと思うが、東日本大震災が起こる前かあとかは覚えていない。月刊誌に連載を持っていてそちらへ大きな力を振り向けていたため、別のものを並行して書くことが可能だろうかと不安を感じていた。担当編集者に無理を言って待ってもらい、それでものろのろと書き始め、一方で連載にも追われる、ということをやっていた。 地震と津波の映像をテレビで見た。驚いたが、映画のようだとは思わなかった。かといってその圧倒的な出来事の実感を肌身に受けたわけでは、勿論ない。私は山口県に住んでいる。直接的な被害はない。だが、海は近い。なのに、やはり実感はない。 次の日からは、時々テレビを見て、あとは仕事をする、という状態になった。画面に見入る時の気持ちはどのようなものであったか。東北がどうなっているかを、見守る? 心配する? しかし東北