今回は山頭火の少々哲学的な味わいの句をご紹介します。 蜘蛛が網を張る行為というのは、独特なイメージがあります。 蜘蛛の巣は、住処であると同時に、食物を得るための道具であり、しかもそれは蜘蛛自身の体から紡ぎ出されたものであります。 この奇妙な自己完結した空間は、『待つ』という行為に凝縮された弱肉強食の老獪な一つの仕掛けといった非情な自然のシステムの一つの形であると共に、何かの外的要因で破壊されても、すぐに復活して無限に自己空間を形成しようとする、一種の閉塞的な本能も感じさせます。 繭をつくって閉じこもってゆく蚕(かいこ)のモノローグ的なイメージに比べて、不気味な仄暗(ほのぐら)い本能を感じさせるのです。 山頭火が、『私は私を肯定する』といったことと蜘蛛の行為を並列させたことには、これらにある種の共通なものを感じとったに違いありません。 自分を肯定することは、他人や世間といった外的なこ