俣野 博 〈東京大学大学院数理科学研究科 153東京都目黒区駒場3-8-1 e-mail: matano@ms.u-tokyo.ac.jp〉 現在私は一数学者として,非線形問題の研究に携わっているが,子供の頃は物理学者になるのが夢だった.いつ頃からそう考えるようになったのか,はっきりしない.中学一年のとき,出身小学校(京都市立錦林小学校)の大先輩にあたる朝永振一郎博士がノーベル賞を受賞された.この出来事が,私の目を物理学に向ける一つのきっかけになったのかも知れない.中学時代は物理に関するいろいろな啓蒙書を読むのが楽しみだった. 高校に入っても,物理には特別の親しみを感じていた.しかし正直なところ,啓蒙書を読んであこがれた相対論や量子力学の世界はおろか,高校の物理の教科書の内容にもわからない点が多かった.例えば床の上をすべる物体にかかる摩擦力は,なぜ垂直荷重に比例するのだろうか? 自分