カザルスというチェロの大家には面白い逸話がたくさんある。生まれたのはカタルニア地方の貧しい家。音楽に理解のある両親(特に母親)に支援されて、若いときから高名なチェリストについて研鑽する。そのときの練習の激しさというのはたいしたものだったらしい。すぐに頭角を現して、先生を追い抜くと、無理をしてマドリードの音楽学校にいき(そこにもいろいろ紆余曲折があったと記憶する)、その後スペイン女王に謁見、お披露目演奏をする機会があり、さらにパリにいき、独立した演奏家として活動を開始する。このとき20代の始め。まだ録音機器ができたばかりで、商業レコードもほとんどなかったこの時代の様子は興味深い。音を聴くことのできない演奏家のエピソードはほとんど神話だ。 その後はヨーロッパ中を演奏活動して歩き、ヴィトゲンシュタインの生家に一時期滞在してもいた。そこにはブラームスも出入りしていたというウィーンの名家で資産家だっ