1999年7月15日の熱い教室で、吉田彩は陰口を背中の右半分で耐えていた。反応さえしなければ存在しないのと同じだと信じているような頑なさで、机の上に置いた手を一心にいじっていた。しかし陰口も、それをやり過ごすことも、同時に停止した。休み時間の教室の全てが停止した。この1年4組に留学生が来ると予言する金内和彦の声に全員が全神経を傾けたからだった。 金内和彦は開け放たれたままのドアをくぐる瞬間、わずかにうろたえたような様子を見せた。誰もこの時点で彼に注意を払っていなかった。金内和彦は一重まぶたの奥を欲求でぎらつかせた目で素早く教室の中を見渡した。渡邉博明たちが集まって話し込んでいるのを目指して机をよけながら進んだ。目の前を金内和彦が通って夏の男子高校生の、汗ばんだ不快な体臭を嗅いで吉田彩が顔を上げた。 金内和彦は教室の全員が自分の発言を聞いているとはっきり意識しながら、あくまで渡邉博明たちに話