本書の主役である「すべてを変えた一冊」とは、地球が世界の中心ではないことを明らかにしたガリレオの『天文対話』でも、生命に進化という概念をもたらしたダーウィンの『種の起源』でもない。暗黒の中世に別れを告げ、大航海時代を迎えようとしていた1417年のヨーロッパで、その一冊は1人のブックハンターの手によって発見された。 その一冊とは、紀元前1世紀頃に著された『物の本質について』である。詩人であり、哲学者であったルクレティウスの手によるこの本は、古代ローマの同時代人にも受け入れられることなく、時の経過とともに忘れ去られていく。そのため、15世紀初めの頃には『物の本質について』は写本の一冊も見つけられない幻の書となっていた。この本が発見されなければ、ルネサンスの起こりはもっと遅れていたかもしれない。この本の価値に気づき、その内容を広めようとする人がいなければ、近代の姿は今とは大きく異なるものとなって