現代詩 USBメモリを無くした 村崎懐炉 僕のUSBメモリがなくなってしまった 職場のPCに挿したまま 忘れて帰って 気付いたときにはなくなっていたのだ メモリの中にはこれまでに手掛けた仕事が全て入っているのに 撮りためた旅行写真が入っていたのに あなたに宛てた愛の言葉も残っていたのに これまでの苦労と思い出と将来を含めて僕はなくしてしまった 東京の雑踏を 人にぶつからずに歩くには みんながメモリーを持っているからだ 空の色が青いということを 知っているのは みんながメモリーに保存しているからだ 明日という日がくることを 世界が平和に満ちていることを 人類が慈愛に満ちていることを そういう当たり前のことを 僕はなくしてしまった 僕はいまアンパンを食べている 食べてみて思い出したのだけど 僕はアンパンが好きじゃない だってあんこが甘いし 甘いものは好きじゃないんだ 今晩 僕は月を見て 月に暮