旅が好きだからといって、いつも旅ばかりしているわけにはいかない。多くの人は、人生の時間の大半を地元での地道な日常生活に費やしているはず。私もその一人だ。が、少し異なるのは、夕方近くにはほぼ毎日、その地域で昔から続く銭湯(一般公衆浴場)ののれんをくぐることだろうか。この習慣は地元でも旅先でも変わらない。昔ながらの銭湯の客は、地域の常連さんがほとんど。近場であれ旅先であれ、知らない人たちのコミュニティーへよそ者として、しかも裸でお邪魔することは、けっこうな非日常体験であり、ひとつの旅なのだ。 じつを言うと“今年”行きたい銭湯は山ほどある。というのは、旅情あふれる昔ながらの銭湯は激減していて、いつまで営業を続けられるかわからない銭湯が少なくないからだ。したがって銭湯ファンの間では「そのうち行こう」は禁句である。しかし山ほどあるものを全部は紹介できないので、今回はその街の“最後の1軒”となった銭湯