「なるほど、面白そうですね。でも、全公演を観るなんて不可能でしょう」。そう言われて、僕はしばし言葉を失った。飴屋法水が構成・演出を担当した『3人いる!』を観た後で入った居酒屋。話者は自身演出家でもある見巧者の友人である。 多田淳之介が書いた『3人いる!』は、パラレルワールドならぬ「パラレルアイデンティティ」を描いたとでもいうべき、複雑にして見事な物語だ。人物Aが自室にいると、別の人物A'が部屋に入ってきて、驚いた様子で「私の(俺の)部屋で何やってんの?」と問い質す。もちろんAも驚くが、さらに驚いたことにA'の名はAと同一であり、過去の記憶も直近の記憶も一致する。言い争いの果てに、決着を付けようと友人Bの家に行くと、BにはAとA'のふたりではなく、ひとりしか見えない。しかもBは、ついさっき、まったく知らない人物B'が部屋に入ってきて「私の(俺の)部屋で何やってんの?」と言われたと訴える。そ