11月4日(ブルームバーグ):酒井アサヨさんは大阪市内のマンションで玄関ドアをドンドンと両手のこぶしでたたき、外に出たいと一日中わめく。どうしてそこにいるのか、本人の記憶は定かでない。認知症を患っているので忘れてしまう。 87歳になったアサヨさんと同居する娘の章子さん(55)が5年ほど前の出来事を振り返る。行く手を阻む章子さんをたたき、かみつき、暴れて抵抗するアサヨさん。こんな光景が日常茶飯事となっていた。疲れ果てた章子さんはその日、玄関のドアを開け、アサヨさんを会社員でごった返す大阪のビジネス街、北浜に解き放った。「出るのであれば出ていけ」。 「叫んでわめき、かみつく悪魔のような母に、私の人生は終わったと思った」と章子さんは言う。行き着くところまで行き着いて、どうすることもできなくなった果ての決断だった。しかしこの後2人には思いもかけない物語が待っていた。 親や配偶者を介護する人は増え続