東京・世田谷の静かな住宅街の一角、重厚なレンガ造りの建物に足を踏み入れると、若い俳優たちが交わすせりふが耳に飛び込んでくる。仲代達矢さん(86)が主宰する「無名塾」の稽古(けいこ)場「仲代劇堂」では、来年3月の公演に向けた立ち稽古が始まっていた。 稽古場から壁一つ隔てた一室で、仲代さんが語り始める。「単なる一役者の、残り少ない人生ですけれども、戦争と平和という問題を作品の中に込めて生きてみたい。戦争を体験した最後の世代として、そう思っております」。日本映画の黄金期を体現し、なお一線の舞台に立ち続ける名優の声が重く響いた。 仲代さんが生まれる前年の1931年は、満州事変勃発の年。そして翌年の5・15事件、上海事変と、日本は軍国主義が暗い影を広げる時代を迎えていた。日本が太平洋戦争に突入した41年に父を肺結核で亡くした仲代さんは、軍国少年として戦火の日々を過ごしていた。「年齢的に兵隊にこそ行っ