いくつかの仕事を放り出して、僕は電車にとび乗った。ネクタイを緩めて、はち切れそうになった期待をワイシャツの外へ逃がす。だらしなく弛緩した頬をひきしめようとして、明日に持ち越された仕事のことや、課長の怒鳴り声を想像したけど、ちっともうまくいかなかった。 ──もうすぐ、君に会える。 電車はトンネルを通過するあいだじゅう、真っ黒の車窓に僕のニヤケ顔を映し続けた。インターネットで知り合った僕らが顔を会わせるのはこれが初めてのことで、それはつまり僕と君の家が離れていたせいで…。長らく続けてきたメール交換はすっかり僕の生活の一部になっていて、それが君も同じならいいって思うけど…。もしかしたら、たったそれだけの事を言いたくて、僕はこれまでちまちまと君にメールを書き続けていたのかもしれない。 豊洲でゆりかもめに乗り換えて国際展示場へ。ここ数年足が遠のいていたアートイベントの会場は、今回も沢山のアーティ